雪降る夜はあなたに会いたい 【下】


 立食パーティーもあると聞いていたから、少し明るめのベージュのワンピースにジャケットを羽織り、真珠のアクセサリーを身に着けた。

 開始時刻十分ほど前に、会場に到着した。都心の高級ホテルの大広間、受付を探している中で何か違和感を感じる。

どうして、皆、着物を着ているのだろう――。

既に会場に入っている人も、同じように受付に向かう人たちも、誰もが着物を着ていた。見えない不安が込み上げながら、受付へと向かう。

「栗林様からご招待を受けている、榊雪野と申しますが――」

栗林専務の奥様から、受付で自分の名前を告げればいいようにしておくと言われていた。

「はい、うかがっております。では、こちらを……あの――」

受付の方がこの日の予定表を私に渡そうとした時、何かを言いづらそうにしながら口を開いた。

「本日は、お着物着用での出席をお願いしていたのですが、お聞きになっていないですか?」
「……え? そうなんですか?」

だから、皆、着物を――?

「はい。本日の講演をなさる宮川史子(みやがわふみこ)様のご提案で、日本の文化としてこれからも着物を伝えて行こうという趣旨に皆様御賛同されて、そのような形になっております」

着物なんて、会が十分後には始まろうという今からではどうしようもできない。

「着物の着用は必須ですか? それとも、この服装でも参加できますか?」
「……ちょっと、主催者の方に確認してみますが。ただ、本日の一番の趣旨になるので――」

会場入り口のこの日のイベント名が書かれていた。

『日本女性として、世界に、そして未来に伝える、着物文化』

見渡す限りの着物を着た女性たちの私を見つめる視線に、ふっと立ちくらみを起こしそうになる。

「――あら、雪野さん! 創介さんの奥様!」

会場の方から、自分を呼ぶ甲高い声がした。それは、栗林専務の奥様だった。


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