3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「ここは定番のスタンダードなディナーコースが良さそうですね。メインはパスタとピザを選ぶみたいですよ」

「それなら俺はピザにするから、天野さんパスタにして二人で分けよっか。俺はこだわりないから好きなの全部選んでいいよ」

車内で沢山会話をした甲斐あってか、向かい合って座っても始めの緊張感はすっかり薄れ、自然と話が出来るようになった。

そして、相変わらずの瀬名さんの優しさに感動しながらメニューを選び注文すると、程なくして食前酒であるスパークリングワインが提供され、瀬名さんにはノンアルコールが提供された。


「とりあえず乾杯しよっか」

「はい。今日も一日お疲れ様でした」

グラスを手に取り、ガラスが触れ合う甲高い音を響かせながら、私達は笑顔で乾杯する。

この瞬間がどれ程憧れ、待ち望んでいたことか。

こうして雰囲気のあるお店で瀬名さんとお酒を飲んでお食事が出来るなんて、一般階層で勤務していたあの頃の私には信じられなかったでしょう。

そんな幸せなひと時を噛み締めがら、私は目の前に座る愛しの彼に目を向ける。


「そういえば、東郷様の専属バトラー勤務はひと段落ついたんだよね?」

すると、突然楓様の話題に移り、条件反射で肩がぴくりと反応する。

「え、ええ。何とか無事に終わりました。お仕事も安定したそうなので、暫くは専属バトラー勤務はなさそうですね」

私はなるべく心境を悟られないように作り笑いを浮かべて、淡々と瀬名さんに現状を伝えた。

「…………あれから東郷様とは上手くやれてるのかな?」

それから暫しの間、瀬名さんは何か考え込むように視線を下へと落としてから、神妙な面持ちをこちらに向けてくる。

「なんていうか……。天野さんVIP階層来て早々にとんでもない現場に出会して相当ショック受けたでしょ。だから、あれからずっと気掛かりで。ましてや専属バトラーになってからそういう機会が増えているんじゃないか心配で……。ランチの時もあまり元気なかったし」

そして、少し躊躇いがちに胸の内を話してくださり、私は瀬名さんのその心遣いに軽い感動を覚えた。

「そうだったんですね。ご心配をお掛けして申し訳ないです。でも、ご安心下さい。そこは楓様に配慮すると仰って頂けたので、それに関しては大丈夫です」

とりあえず、これまで気に掛けて頂いたことは素直に嬉しいけど、余計な心配をさせてしまった申し訳なさに私は頭を軽く下げてから、お詫びとしてこれまでの経緯を話せる範囲で瀬名さんに全て伝えた。
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