3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
◇◇◇


「こちらは今流行りのデザインでして。どれもお客様にはお似合いだと思いますよ」

数あるお店の中でも、オーダースーツ取扱店の高級感漂うお店へと足を運んだ途端に、若い男性の店員の方にすかさず声を掛けられ、あれよあれよという間に何着かのスーツが用意され、楓様の前に陳列されていく。

どれもスリムタイプの物で、無地や様々なストライプ柄やチェック柄。色もブラック、ネイビー、グレー、ダークブラウンなどなど。確かにどれをとっても楓様なら全部着こなせそうで、想像しただけでも胸が高鳴っていく。

「ご試着されてみますか?お連れ様もご覧になってみてはいかがでしょうか」

楓様は何着か並べられたスーツの前で黙ったまま立っていらっしゃると、店員が笑顔で試着室を促し、こちらの方にも視線を向けてくる中、“お連れ様”という言葉に一人舞い上がる私。

試着室で楓様と一緒にスーツを選ぶ事が出来るなんて……。

これまた想像が膨らみ出した私は、再び鼓動が速くなり、期待に胸が膨らみ出す。

「いや。これでいいから」

しかし、楓様は並べられたスーツの中からフルセットで三着ほど手に取り、そのまま店員の方に渡した。

その潔さに圧され、呆気にとられる私と店員の方。

値段はいかがなものかとタグをちらりと覗けば、どれもフルセット価格は三十万以上する代物ばかりで、私はその場で絶句してしまう。しかも、オーダー品となればさらに上乗せ価格となる訳で……。

こんな高級品を値段も見ずに、あんなにあっさり買われてしまうなんて……。

つまりは、百万以上の買い物を、あの方は何の躊躇いもなく、この短時間で完了させてしまったということ。


……。

…………恐るべし、財閥御曹司!


やはり、当ホテルを仮眠室代わりに使うお方だけあって、その金銭感覚の狂いっぷりに体を震わせていると、楓様は採寸を図るために店員の方とさっさと試着室に入られてしまった。

こうして、楓様と一緒にスーツを選ぶという夢は見事に打ち砕かれてしまい、私は一人項垂れながらお帰りを待つ。


それから程なくして、楓様は試着室から出てこられ、その後お会計やら配送手続きやらを済ませると、ものの十数分で買い物はそこで終了したのだった。
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