3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
こうして、ようやく私達の買い物が終わり、全ての荷物を積み終えると車内のトランクや後部座席には沢山の買い出し品で溢れかえっていた。

「たかが料理をするだけで、こんなに物が必要なのか」

その有様を不思議そうな目で眺めながら呟いた楓様の一言に、私は苦笑いをするしかない。

本当に、楓様は普段はどのような生活をなされているのか。

これからいよいよご自宅にお邪魔することにはなるのだけど、今の心境は緊張というよりも好奇心の方が勝っている気がする……。

そう感じながら、私達は車に乗り込み、走らせること約十分ちょっと。  
到着したのはレインボーブリッジが見える東京湾を前に、タワーマンションが立ち並ぶ港区の一角にある高級住宅地。

国内屈指の財閥御曹司というだけあって、それなりの場所に住んでいらっしゃるのだろうと覚悟はしていたものの、現実を目の当たりにすると動揺を隠せない。

そうこうしているうちに、タワーマンションの中でも一際高い建物の地下駐車場へと潜り、楓様は車を停車させると、何やらポケットから携帯を取り出し何処かに電話をかけ始めた。

「今駐車場に居るんだけど、荷物が多過ぎるから運び入れ手伝って」

暫くコールオンが鳴った後、電話越しから女性の声が聞こえると、楓様は以前私にも向けていたような冷めた口調でそう仰ってから直ぐに通話を切った。

「楓さん今のは?」

確かに、この荷物を全て運ぶのに何往復すればいいのだろうと思っていたところだったけど、一人暮らしである楓様は一体どなたに連絡をされたのか不思議に思い首を傾げる。

「コンシェルジュに頼んだ。そのうち来ると思うから少しここで待ってろ」

そんな私の問いかけにさらりと答えた楓様の“コンシェルジュ”という単語に、私は言葉を失った。

確かに、一等地の高級タワーマンションであればそういったサービスもあって可笑しくない話ではあるけど……。


それから数分して遠くの方からカートを転がす音が響き、楓様は車から降りてトランクを開けて待っていると、制服を来た一人の若い男性が自分の身長と同じくらいの高さはあるバゲージカートを引いて現れ、私達の前で立ち止まる。

「おかえりなさいませ、東郷様。お荷物はこちらに積まれているもの全てでよろしいでしょうか?」

「ああ」

まるでホテルと同じような対応で男性は一礼した後、相変わらず素っ気ない態度で楓様は応えると、素早い動作で男性は買い揃えた調理器具の入った箱をカートに積み始めた。

その間に私と楓様で後部座席にある食器類や食材を持ち運び、あっという間に全ての荷物を積み下ろすと、私達はそのままロビーへと続くエレベータへと乗り込む。

エレベーターから降りると、そこにはホテルさながらのだだっ広いロビーに、ゲストルームのような牛革のソファーとテーブルがいくつも設置されていて、窓際には外観を鑑賞するためのカフェテーブルや椅子まで設置されていた。  

そして、数十メートルくらいはありそうな天井には煌びやかなシャンデリアがいくつも吊り下げられ、壁一面に張り巡らされた窓には燦々とした日差が差し込み、外に生えている紅葉の木々の葉がキラキラと光っている。

……なんて綺麗なんでしょう。

まるで一枚の大きな絵を見ているようで、私は思わず感嘆の息を漏らしてしまう。

もはやこれだけでもホテル以上の景観に圧倒されてしまい、暫くその場から動けなかった。

「何してんだ?早く行くぞ」

すると、なかなか先を行こうとしない私を楓様は訝しげな目で見ると、そのまま私の手を握って軽く引っ張った。

突然手を握られたことに肩が思いっきり跳ね上がり、人前で手を繋ぐなんて恥ずかしことこの上ないけど、確かにここは楓様に引っ張って頂かなければ、あまりの豪華絢爛な造りに、その都度足が止まってしまいそうになる。
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