3121号室の狼〜孤高な冷徹御曹司の愛に溺れるまで〜
「す、凄いです。東京湾が一望出来るなんて……」
扉を抜けてリビングへと到着すると、壁一面ガラス張りに囲まれている中、目の前には高層ビルに囲まれた真っ青な海が広がり、高層階の角部屋のため遠方にはレイボーブリッジや東京タワーやスカイツリーなど、各名所が網羅されていて、まさに都内の夜景を独り占め出来るような景色に私は感嘆の声を漏らす。
広いルーフバルコニーには綺麗に整備されたテラス席もあり、天気がいい時はそこで一緒にお茶をしながらこの素晴らしい景観を楽しんでみたり、夏の時期には花火を鑑賞したりと。夢みたいな話に私の妄想はどんどんと膨らみ、意識が遠のいていく。
……なんて。こんな所で突っ立っている場合ではありませんでした!
私はふと我に返ると、運んできた調理器具や食材やらを整理するためキッチンへと向かう。
そこでようやく部屋全体を見渡してみると、部屋の中は三十畳以上はありそうな程広く、床は白い大理石が敷き詰められていて、キッチンはオープン型だった。
その奥にあるのは四人掛けで漆黒の木製ダイニングテーブルと、更にその奥には楓様の身長でも余裕で寝れるような長いモダンなグレーのカウチソファーと、黒色大理石で出来た楕円形ローテーブルの上にはガラス製の灰皿が置いてあった。
そして、大型インチの壁掛けテレビ。収納は壁と一体型になっている為、シェルフなどは一切置いてない。
インテリアといったらそれくらいで、後は何もない。
部屋を飾るようなものなど一切なく、カーペットなどもなく、勿論キッチンにすら何も置いていない。
まるで今引っ越してきたばかりなのかと思うくらいに物がなく、部屋の中は空っぽで、生活感がないにも程があった。
よく、部屋はその人の内面を表すというけれど、もしこれが楓様の内面なんだとしたら、あまりにも空虚で、寂しいものだった。
「美守、この辺の道具は全部ここに置いといていいのか?」
そんな中、黙々と箱から買った物を取り出してキッチンに並べていく楓様の言葉に私は意識を戻し、彼の元へと近寄る。
「はい。使う前に一度洗うので、そこにまとめて頂ければ大丈夫です。あと、食材を冷蔵庫に入れてもよろしいですか?」
とりあえず冷凍品もあるので、長時間放置するわけにはいかない為、私は冷蔵庫を開ける許可を請う。
「ああ。好きにしていいから」
それをあっさりと承諾して頂き、楓様は引き続き食器を包む包装紙を広げ始めたので、私も素早く食材を整理しようと、冷蔵庫の中を開けた途端、思わず絶句してしまった。
何となく予想はしていたけど、冷蔵庫の中もペットボトルのお水と数本のビール缶とワイン瓶が入っているだけで、それ以外の食材は何もない。
野菜室も空っぽで、冷凍室には氷があるくらい。
確かに、キッチン用品やお皿がない状態を考えれば納得出来るけど、この様子を見る限りだと、楓様の普段の食事は外食やスーパーやコンビニのお惣菜などで賄っているのでしょう。
その上であれ程までに働いていらっしゃるとは、つくづく彼の健康状態が心配でたまらなくなる。
ひとまず買った食材を冷蔵庫に入れて整理をして、調理器具や食器を洗って並べてみると、ようやくそこに生活感というものが生まれてきたような気がした。