転生アラサー腐女子はモブですから!?

短気は損気

『――――バシンっ!!』

 クレア王女の突然の暴挙に王妃様の叫び声があがり、叩かれた頬がジンジンと痛む。

 ここで、クレア王女の挑発に乗れば、自分もまた、目の前の彼女と同レベルになってしまう。その思いだけで、アイシャは痛みにジッと耐える。

「クレア何てことをするの!! アイシャに謝りなさい!」

「お母さまは黙ってて!! これはわたくしとこの性悪女との問題よ! ノアお兄様を(たぶら)かしたのは貴方ね。どんな女にも(なび)かなかったお兄さまが、令嬢を王城に呼んだと聞いたから心配で来てみたら、今度はお母様までたらしこもうって魂胆ね!! 何が目的よ。貴方なんかにわたくしの大事なお兄様は渡さないんだから!」

(なんだこのブラコン王女は?)

 アイシャの脳内で昼のメロドラマのワンシーンが流れる。

『この泥棒猫がぁぁぁ!!!!』

(さしずめ私は大切な夫を奪った浮気相手というところかしらねぇ)

 目の前で散々に罵倒されるが、クレア王女がヒートアップすればする程、アイシャの脳内は静かに冷めていく。

「黙ってないで何か言ったらどうなのよ!」

 周りの状況を見る余裕も出てきたアイシャの目には、周りで控える困惑顔の侍女や、この場を収めようとクレア王女を諌める王妃さまの姿が写る。

(挨拶なんてしなくていいわよね)

「話も長くなりそうですし、お掛けになったらいかがですか?」

 虚をつかれたクレア王女が、ドカッと乱暴にアイシャの前の席へと座る。緊迫する空気の中、勇気ある侍女がお茶を入れたカップをテーブルの前に置く。それを、クレア王女が口をつけた時だった。

『バシャッ!』

「――――きゃぁぁ!!」

「こんなマズイお茶、飲めるわけないじゃない!!!!」

 あろう事か、クレア王女がその侍女に向け、お茶の入ったカップを叩きつけたのだ。

『パッリーン!! プッチン……』

 地面へと落ちたカップが割れる音と同調するかのように、アイシャの脳内で堪忍袋の緒がプッツン切れる音がした。
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