転生アラサー腐女子はモブですから!?
「アイシャ、寝られないのか?」

 突然、背後からかけられた声に驚いたアイシャは、肩を震わせ、慌てて振り向く。ソファに寄り掛かり天井をボーッと見上げていたアイシャは、背後にキースが立っていたことに気づいていなかった。

「キース様、ごめんなさい。うるさかったかしら? 起こしてしまったみたいね」

「いや、違う。うるさくなんて、なかったよ。――――最近、寝られていないだろう? よくここで、一人ボーッとしていたよな。今みたいに。ずっと声をかけられなかったが、日中の様子が、あまりにも辛そうだったから」

 横に座ったキースに顔を覗き込まれ、心配そうにアイシャを見つめる瞳とぶつかる。

(キースには、全てバレていたのね)

「大丈夫よ。ちょっと繰り返し悪夢を見ているせいで、深く寝られていないだけ。心配かけて、ごめんなさい」

「ひとつ聞いてもいいか? あの日、アイシャが町でゴロツキに襲われた時、アイシャを助けたのはリアムだったのか? アイシャが剣を嗜んでいるとは言え、ゴロツキ三人は一人では倒せないだろう」

 キースは知っていたのね。あの場にリアムが居た事を……

「えぇ。私を助けてくれたのは、リアム様でした。ゴロツキ三人を倒したのも」

「俺が駆けつけた時、気を失ったアイシャの側に落ちていた短剣。あれは、俺とアイシャが騎士団で戦っていた時に持っていたものだろう?」

「はい。リアム様に剣を師事していた時に、もらいました。それを護身用に持っていただけですわ」

 心にわずかに走った痛みを無視し、ただの護身用の短剣だと言い募る。

「あれは、リアムが幼少期に愛用していた短剣だった。あの短剣はアイシャにとって何よりも大切なものだったんだね」

「いえ……、そんなことは――――」

「三日三晩、目を覚さなかった間中、ずっと離さなかったんだよ。その短剣を……、アイシャはリアムを愛しているんだね。今もそれは変わらない?」

 どうしても頷くことが、出来なかった。
 
 肯定も否定もせず、ただ前を見据え、なにも言葉を発さないアイシャをキースが抱き寄せる。

「――――泣いているのも気づいていないんだね」

 泣いている?

 それが全てを物語っていた。今でもリアムを愛していると……
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