転生アラサー腐女子はモブですから!?

王族の責任【ノア視点】

 クレアの登場に、さっさとお茶会を辞去してきたノアは、私室に置かれたソファへと腰掛け、ある令嬢のことを思い出していた。

「アイシャ・リンベル伯爵令嬢か……」

 黄金色の髪と、ちょっと勝ち気なコバルトブルーの瞳を持つ少女。

 あのダニエルが溺愛する妹がいるらしいと噂で聞いたのはいつだったか。

 なにかと理由をつけては王城へとやって来る煩い令嬢達には見向きもしないアイツが可愛がる妹。そんな存在がいる事に、単純に興味がわいた。

 エイデン王国には変わった慣習がある。貴族家の女児は、七歳の披露目を迎えるまで外へ出してはならない。しかし、こんな慣習、守っている貴族家などほぼいない。そんな古びた慣習を守る貴族家の一つが、王妃である母の妹君が嫁いだ家でもあるリンベル伯爵家だ。

 かの家は、王族との繋がりを欲しがる貴族から公爵家と縁の深い高位貴族まで様々な貴族家と交友関係を持っている。もちろんリンベル伯爵家には、そんな貴族家から客がひっきりなしに訪れていた。それなのに、誰もアイシャと会ったことがないという。

 厳重に存在を隠されたリンベル伯爵家のご令嬢。そんな秘密めいた令嬢が、七歳を迎える誕生日にお披露目されるという話を聞き、興味がわいた。

 名目はアイシャの披露目の誕生日パーティーだが、実際は将来の婚約者を見定める為に開かれるパーティーである事は、招待された家々は言われなくてもわかっていただろう。公爵家から嫁ぎ、王妃を姉に持つルイーザ夫人を娶ったリンベル伯爵との関係を結びたい貴族家は、アイシャとの婚約を是が非にも成立させたいと、あの披露目の会へと参加した。

 しかし、あの披露目の本来の目的を知っていた者が、あの場にどれほどいたのか。

「白き魔女と、それを守る両翼……」

(まぁ、おとぎ話と切って捨てて仕舞えば、それまでか。僕には関係ない)

 胸に去来したわずかな痛みを無視し、テーブルに置かれたお茶を一気に飲み干す。
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