転生アラサー腐女子はモブですから!?
「女騎士だから社交界へは行かない? それは暗に、剣を握る彼女達は野蛮だと言っているのと同じです。女の癖に剣を握るなんておぞましいと、ささやくバカ共と一緒です。貴方が今まで心血を注いでやって来たことを自分自身で汚してどうするの!? 今まで逃げて来た事の言い訳はよしなさい!」

 自身の今までの行動を正当化する為についた言葉が、いかに愚かなモノだったかを思い知らされる。

 母の言葉は正しい。

 アイシャの言い分は、剣を教えてくれたお姉様方を貶めただけではなく、目標に向かい努力し続けた自分自身の十年間をも穢してしまった。

(剣を握っている女性は、社交界デビューしないなんて……、自分で自分の可能性を潰してどうするのよ!)

 どんな事でも挑戦する心構えがなければ、一人で生きて行くなんて出来ない。

「申し訳ありません。愚かな事を言いました。お母さまのおっしゃる通りです。私は自身の努力まで貶す発言をしていました」

「そうですね。貴方がずっと心血を注いで来たモノは将来きっと役に立つ時が来るでしょう。しかし、それは今ではありません。貴族として生を受けたからには果たさねばならない責任と言うモノがあります。今までは、貴方の好きなように生きる事を許して来ましたが、そろそろ貴族としての義務と責任とは何かを考え、行動しなければなりません」

(貴族として生を受けた者の責任……)

「貴方の行動ひとつでリンベル伯爵家が傾き、その下で仕える者達の平和な生活を奪い兼ねない事を知りなさい。十八歳の誕生日までに貴族として生きる覚悟を決めなさい。それが貴族として生を受けた者の責任です」

 母はそれだけ言うとアイシャを残し部屋を出ていく。

(お母さまは、私が剣を習っていた事を知っていたのね。知っていながら何も言わず見守ってくれていた)

 思いのまま生きることを、そろそろ封印しなければならない。

 十七歳のアイシャでは一人で生きて行くことは出来ない。親の保護下で生きる以上、貴族としての責任は果たさねばならない。

 アイシャの評判が地に落ちれば、リンベル伯爵家の評判も地に落ちる。そうなればリンベル伯爵家に関わる全ての人達の生活にも影響を及ぼす。

 十八歳で社交界デビューが決まっているのであれば、リンベル伯爵家を守るための武器と鎧を身につけるのは必須だ。自分の力で生きることが出来るようになるまで、リンベル伯爵家の利となる完璧な令嬢になるための努力をしよう。騎士団のお姉様方のように、社交界でも通用する一流の女性になる為の努力を。
 
(それが未来の自分への投資にもなるはずよ)

 剣を習い始めて十年。長かったような、短かったような。剣を教えてくれた師匠達に心からの感謝を伝えよう。

(そして……、最後にキースに一矢報いたい!)

 キースとの戦いで肉体的にも限界だったアイシャは、自室へと戻り、最後の戦いを胸に眠りに落ちた。


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