転生アラサー腐女子はモブですから!?

あぁ、無情。

 一陣の風が吹き抜ける中、アイシャは短剣を構えキースと睨み合っていた。

「とうとう血迷ったのか。そんな短剣で俺に勝とうなんて、馬鹿につける薬はないな。今日で目障りなお前が、俺の前から消えるかと思うと、せいせいする。精々がんばるんだな」

(なんとでも言えばいい。絶対に証明してみせる。今までの努力は、ムダじゃなかったって)

 師匠とお姉様方、そしてリアムが見守る中、アイシャは短剣を握り直し、走り出した。

 突進してくるアイシャをかわしたキースの容赦ない一撃が振り下ろされる。しかし、短剣の刃でなんとか、それを受け止める。

(相変わらず重い剣だこと)

 手がビリビリ痛むが必死に堪え、刃を滑らせ下からキースの懐に飛び込み肘鉄を喰らわせるが、所詮女の力では限界がある。

 鋼のような固い筋肉に阻まれ、大したダメージは与えられない。しかも、反対に肘鉄を喰らわした腕を取られ、捻り上げられてしまった。

「うっ、わぁぁぁ……」

 苦痛に歪むアイシャの顔を見たキースが意地の悪い笑みを浮かべる。

「そろそろ諦めて降参したらどうだ?」

「――――ま、まだよ」

「そうか、なら死ねばいい」

 背後からキースに突き飛ばされ、地面を転がる。ハッと気づいた時には目の前に剣の刃が迫っていた。

 すんでのところで身体を反転させ交わし、地面を転がる。

「さっさと諦めて、令嬢は家で刺繍でもやってろ!」

 長剣を肩に担ぎ、高笑いをかますキースにも腹が立つが、十年間の努力と女性を見下したかのような物言いに、アイシャの中の怒りが爆発した。

(アイツには逆立ちしたって勝てないのはわかっている。でも、自分なりに努力してきたのよ)

 師匠やお姉様方、そしてリアム。

 皆が協力してくれてここまで来れたのだ。そんな協力者の事までキースは侮辱した。

(私のことは、殺したいほど憎んでいたっていい。でも私の大切な人達を侮辱したことは絶対に許さない)

 アイシャの中の怒りが、闘争心を掻き立てる。

(ここで負けるわけにはいかない! 一矢報いるまでは!!)

 吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられて痛む身体を叱咤し立ち上がる。

 重く動かない足を引きずり、ゆっくりとキースとの間合いを詰める。再度構え直したキースの長剣が目に入ると同時に、アイシャは最後の力を振り絞り駆け出した。

(相討ちでも構わない)

 短剣の柄を強く握り直し、キースに突進する。

 振り下ろされる長剣をギリギリで避け、勢いのままキースの懐に剣を打ち込んだ。

――――もう、限界だった。

 気づいた時には短剣を握りしめたまま地面に倒れていた。

(やっぱり、負けたのか……)

「勝者、アイシャ!」

「えっ!?」

 勝利を告げた師匠の声に、重い身体を起こせば、地面に倒れたキースが見えた。

(何が起こったの?)

 自分の目に写るものが信じられない。

(キースが倒れている)

 その場に居合わせた全員が倒れたキースを見つめる中、いち早く我に返った師匠がキースに駆け寄り、状態を確認する。

「すまんが、このまま救護室へ向かう」

 意識のないキースを背負い師匠が立ち去ると、アイシャもまた緊張の糸が切れたのか、そのまま意識を手放した。


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