転生アラサー腐女子はモブですから!?
(ここ、どこかしら?)

 アイシャの目には、真っ白な天井が見える。そしてわずかに視線を横へとずらせば、開け放たれた窓から爽やかな風が吹き込みカーテンが揺れる。

 起き上がろうとして身動いだが、身体の節々が痛み諦めた。

(あの後、私どうしたのかしら?)

 キースが倒れ、意識がないアイツを師匠が背負い。

 記憶がそこで途切れている。

(わたし、本当にキースに勝ったのかしら? でも不思議よね……)

 確かにあの時、自分の中から溢れ出した力を感じた。きっと怒りで火事場の馬鹿力を発揮したのだろう。

 まぁ、最後に一矢報いる事が出来た。これで悔いなく立ち去ることが出来る。

(結局、キースが何故わたしをあそこまで憎んでいたのかは分からず仕舞いね。 アイツは過去の人、さっさと忘れましょう!)

「アイシャ、入るぞ」

 扉を開け、入って来たのは師匠だった。

「身体は大丈夫か?」

「ははは、全身痛いですぅ」

「まぁ、あれだけやり合えば仕方ないだろうなぁ。でも最後にキースに勝てたんだ。今まで頑張って来た甲斐があったな」

「私、本当にキースに勝てたのですか? あの時は無我夢中で、気づいたら地面に倒れていて、アイツも倒れていた。どうなったか、全く覚えていないんです」

「あの時……、アイツの懐に飛び込んだアイシャの短剣の一撃が腹に入ったんだろう。アイツが咄嗟に長剣の刃で短剣の刃を防いでいなければ、模擬刀でも大怪我をしていた。アイツの長剣の刃は完全に折れていた」

「そうですか。どうしてあんな力が出たのか? 人間、切羽つまると火事場の馬鹿力が出るもんなんですねぇ~」

「はっ!? お前、何も気づいていないのか?」

「何がですか?」

「まぁいい。知らん方が幸せな事もある。気にするな。それよりも、アイシャはキースと仲違いしたまま別れてもいいと思っているのか?」

「私は会った時からキースには何の感情も抱いておりません。あちらが一方的に私に敵対心を抱いているだけかと思いますが」

「まぁ、そう思うのが普通か」

「毎回、殺意のこもった目で見られ、酷い言葉を浴びせられれば、嫌いにもなります。今さらアイツと話すことなんて何もありません」

「アイシャはキースがどうしてそこまで君を嫌っているのか知りたいとは思わないのか?」

「私を嫌っている理由ですか? 別に……」

「俺はキースの兄でもあり、剣の師匠でもあったんだ。弟子が仲違いしたままなのは寂しい。出来ればこの機会に歩み寄れないだろうか?」

「私が何をしても、アイツの気持ちが変わらない限りどうしようもないと思いますが」

「実は外にキースを待たせている。アイツもアイシャと話をしたいそうだ。二人で話し合ってくれ!」

「えっ!? し、師匠? 待ってくださいぃぃぃぃぃ」

 それだけを言い残し、師匠が去っていく。

(アイツが私と話したいなんて嘘でしょ!! 逃げたい……)

 思うように動かない身体を恨めしく思いながら、アイシャは天を仰いだ。



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