a Piece of Cake.

腕の上で、オイルがパチパチしている。

ぐっと左手を掴まれて、先程いた手洗い場所まで戻される。男女共用のそこで、激しく水を出されたところに、腕を漬けられた。

お菓子の、甘い香りがする。

「スキレット当たりました?」
「す、すきれ……?」
「小さいフライパンみたいなやつ」

あの鉄板はスキレットというらしい。

「当たってない、です」

酔いが醒めた。

彼がわたしの手首を掴んでいる。

「ちょっと、聡現」
「テーブル戻ってろ」

後ろで連れていた女性が戸惑ったように言って、それに彼が冷静に返す。

これ以上、空気を悪くしてはいけない、とわたしが慌てる。

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