a Piece of Cake.

「あ、あの、大丈夫です。ありがとうございます」

腕時計を外しながらやんわりと彼の手を取ろうとする。

「いや、ちゃんと冷やさないと痕になります。油は落ちにくいので」

それを阻まれ、結局数分間、彼の手も水に打たれてくれていた。

厨房から出てきてくれたホールスタッフの数名もすぐにアヒージョを掃除し、氷水を貸してくれた。
オイル塗れになったカーディガンは脱いだけれど、自分からアヒージョの匂いは取れない。

クリーニング代と治療費は丁重にお断りした。

その間、彼がじゃぶじゃぶと手洗い場でカーディガンを洗ってくれていた。

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