a Piece of Cake.

思えばその時も、彼は今とは違う女性とひりついた空気で話していた。

「ああ、だから会った気がしたんですね」

それとは違って、柔和な雰囲気。すごく、上っ面という感じだ。

まさかこんな所で会うとは思わなかったので、心の準備が出来ていなかった。

あの夜からずっと捜していて、なんて言ったら重いだろうから、黙っておこう。

「本当に、ありがとうございます」

まだ全部は振り切れないけれど、わたしはあの夜、確実に救われた。

ケーキと、この人の優しさに。

頭を下げて、顔を上げれば、またしても見られていた。

顔にもオイルが飛んでいるのかも。

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