a Piece of Cake.

空を仰いだ様子を真似するみたいに、わたしも顔を上げる。
春の終わりの空気だ。

「風邪ひかないようにね」
「上着貸して言ったら、貸してくれるんですか」
「良いけど、入るかな」

オーバーサイズなので、腕くらいは入るかも。
薄手のコートを脱ごうとすれば、止められた。

「冗談です。簡単に脱ぐなんて」
「人を露出狂みたいに言わないでよ」
「夜道、一人で歩くにも気を付けた方が良いですよ」

空の色は、まだ大半はオレンジで、夜道というには明るい。
それを言おうと口を開けば、先に聡現くんが声を発した。

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