1年後に離縁してほしいと言った旦那さまが離してくれません
「あの、それは私たちに必要なことですか?」
アリアはとりあえず冷静に訊ねてみた。
そうしたら、フィリクスは赤面しながら小声で答える。
「き、君がもし……嫌でなければ」
「なるほど、それは愛人との関係の前に私で練習してみようということでしょうか?」
「そ、そのようなことではない」
ますます真っ赤になるフィリクスを見ていたら、こっちまで恥ずかしくなってきた。
だって仕方がないではないか。
アリアとて、男性とそういった行為をしたことなど一度もないのだから。
つまりあれか。
お互いに未経験であるということか。
アリアはしばし黙り、そして無理やり笑顔を作った。
「旦那さま、私は愛のない行為はいたしません!」
フィリクスは呆気にとられ、そして俯いた。
「そうだな。僕が悪かった。忘れてくれ。もう君と寝室をともにするなどとは言わないよ」
意外とあっさり諦めてくれて、アリアは拍子抜けした。
フィリクスが自分の部屋へと戻ったあと、アリアはしばらく呆然とした。
「え……今のは一体、何だったの?」
ここで受け入れていれば、何かが変わったのだろうか。
いや、変わったところでフィリクスがよその女に目を向けていることには変わらないし、アリアが離婚してこの家を出ていくことだって……。
変わらない、はず。
優しい義両親を思い浮かべて切なくなるが。
よくわからないが、これでフィリクスは二度と寝室をともにしようなどとは言わないだろう。
ある程度距離を保って上手く付き合っていくことにしよう。
たった1年なのだから。
そのように考えていたのだが、事態はさらにおかしな方向へ流れていく。