「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
「うんうん。仕方ない。王都っていうか、国がなくなるかの瀬戸際だから。あいつを喚び出そう。俺たちの友情より、王都に住む住人たちの命の方が大事だ」

「……仕方ないよな。うん。仕方ない」

 二人の行き先不明な会話は続き、私には理解出来ないままでルーンさんは可愛い顔に似合わない低い声で呪文の詠唱を始めた。

 ちなみにルーンさんは最高位の魔法使いなので、ほとんどの呪文は詠唱不要らしいんだけど、今から使う魔法は特別に難しいものなんだろう。

 近くの地面に大きな魔法陣が瞬時に描かれて、複雑な文様の線から紫色の光が漏れ始めた。

「フィオナ。もう心配しなくても、大丈夫だよ」

 にこっと微笑んだシリルは、こんな危機的状況なのに、絶対大丈夫だと疑ってもいない様子だった。

「シリル。誰を召喚するの?」

 そこがわからないと、私は永遠にこの事態を理解できない。

「うん。俺たちの、心強い仲間の一人。実はこいつが俺より、魔王討伐の旅の間、ベアトリスの被害を一番受けていた男なんだ」

「え……? シリルよりって、誰なの?」

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