「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
「何を嫌だと思うんだ? 俺がこれまでああ言う場所に行かなかったのは、人の集まる場所に行けば、すぐにベアトリスがやって来ることが嫌だった。可愛い妻を伴えば、彼女も逆に近付いて来られないだろう」

 私が居ればベアトリス様は、彼に近づいて来ない。そうだったわ。

「そうですね……ええ。それでは、私は今日は夜会の準備をしてお帰りをお待ちしております」

 納得したつもりで微笑んだけどぎこちない笑顔であったことは、仕方ない。

 けれど、こんな私が勇者シリルと結婚出来たのは、彼が嫌がっているベアトリス様が私が居れば近づいて来ないから。

 ただ、それだけ。

「ああ。そうしてくれ。なるべく、すぐ帰るようにするよ。前々から軍の戦闘顧問の仕事を将軍から、依頼されていたんだ。ようやく恩のある彼からの申し出を受けることが出来て、仕事らしい仕事が出来るよ」

「なかなか適任者の居ない、素晴らしいお仕事ですわ。とても素敵です」

 私がそう言えば、彼はパッと顔を明るくして嬉しそうに笑った。

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