「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
「……そうか! フィオナがそう思うなら、受けて良かったよ。ところで、貴族の女性が夜会へと出席するための準備は、朝から何時間も掛かるって本当なのか?」


◇◆◇


 私たちの名前を呼ぶ声が聞こえて、夜会の会場へと入れば、一斉にこちらへと視線は集まった。

 会場中から痛いくらいの視線が集まるのを感じて、自然と手が震えた。初めて勇者シリル・ロッソが、こうして人前に姿を現すのだ。注目の的になることは、避けられない。

 私たち二人は周囲から、どう思われている? 華やかな勇者の隣に居るのが、地味で特筆すべきところのない女性で、とても不釣り合いだと?

 ああ。こうなることは、わかっていたはずなのに。

「……フィオナ? どうした? 顔色が悪い」

 エスコートするために持っていた手を握っていた力が強くなって、私ははっと我に帰った。

 すぐ隣には、シリルの整った顔。心配そうに、表情は歪んでいた。いけない。これは、彼には何の責任も……関係もないことなのに。

「いいえ。大丈夫です。ごめんなさい。考え事をしていました」

 私が小さな声でそう言えば彼はほっと安心した様子で、シリルは微笑んだ。
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