「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。

「そうか。冷たい飲み物を貰って来よう。君はここに居て、すぐに戻るから」

 そう言ってからシリルは周囲に集まる貴族たちの間をすり抜けて、歩いて行った。何を今更と思われそうだけど、私の夫は本当に何をしても絵になる人だ。ただ歩いているだけの後ろ姿だとしても、目を引く。

 とは言え、シリルは必要あって私と結婚しただけだし、愛まで望んでしまえば全てを失うことになりそう。

 そんな私は自分の立場を、客観的に見るべきだわ。

「フィオナ……! フィオナ! あれは、勇者様? 本当に、驚いたわ。私、何度も家に行ったのよ。けど、貴女いつも外出していて、会うことが出来なかったの!」

 ああ。そうだった。私はこの夜会にやって来た理由を、思い出した。駆け寄って来た彼女に、説明をしなければ。

 だって、私たち……幼馴染みで、仲の良い親友なんだもの。

「ええ。心配をかけてごめんなさい。ジャスティナ。私にも突然決まったことで、説明する余裕が全くなかったのよ」

 そうして、私はいつものように、とても良く出来た仮面を被る。これは、長年使って来ただけあって、そうそうのことでは壊れはしない。

 親友ジャスティナの美しさや聡明さにただ心酔しているだけの友人、引き立て役の仮面をね。
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