「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。

08 招待状

「……何、それ?」

 いきなり背後からルーンさんの声が聞こえて、手紙を読んでいた私ははっとした。

 勇者シリルが魔王討伐した時に同行した魔法使いである彼は、資金源である王の命令には絶対に逆らえない魔塔を近い将来辞めてしまうつもりらしい。

 着々と準備を進めているのか、最近は仲の良いシリルの家に居ることが多かった。今日もシリルは日中仕事で留守なんだけど、我知ったる顔でロッソ公爵邸をうろうろとしている。

 ルーンさんは可愛い顔をしているけど、割とはっきりとものを言う時がある。それだって彼が優しいからだ。

 私がシリルと結婚を決めようとした時も、本当に大丈夫か? と何度も心配していたし、責任を感じて結婚してからも私の様子を見に来てくれている。

「えっと……お茶会への招待状です。私の……仲の良い親友からの」

 聖女ベアトリス様が乱入して来た夜会以来、ジャスティナとは話せていない。だから、私からシリルとの結婚について詳しいことを聞きたがっていることはわかっていた。

 けれど、彼女に嘘もまじえて話さないといけないことが憂鬱で、二回ほど招待を断った後のことだ。ジャスティナとの縁を切りたい訳ではないので、これを断りたくはない。

「へー……親友からの手紙にしては、全然嬉しそうじゃないけど……」

 私はジャスティナへの複雑な思いを見透かされたようで、体がビクッと震えた。嬉しいか嬉しくないかで言うと……とても、難しい。

 姿も心も美しいジャスティナは、大好きだ。けれど、私の中にある彼女に対する劣等感が、いつも彼女との友情を邪魔する。

「……ルーンさんって、自分が絶対に勝てない人って居ますか?」

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