「急募:俺と結婚してください」の手持ち看板を掲げ困っていた勇者様と結婚することになったら、誰よりも溺愛されることになりました。
「あ。違うのっ……お茶会は、何も関係ないから。シリル」

「……では、何か違う理由?」

 手をぎゅっと握られて、私は彼の背中に顔を付けた。シリルの背中は大きくてあったかくて、とても安心が出来る。

「ううん。もう、何でもないから……遅れて来た、マリッジブルーなのかも。私はシリルと結婚したという、実感がまだ少ないから」

 歯切れの悪い言い訳だと、自分でもわかっていたけど……こう言ってでも、切り抜けるしかない。

 私が考え込んでいる理由を、シリルには明かせないもの。

「だいぶ苦しい言い訳だけど、俺に言いたくないという意志は伝わった。そんなフィオナに、話せと無理強いはしたくない。では、ともに着替えて夕食にしよう。君付きのメイドは、奥様が魂がぬけてしまったと心配していたよ」

「……考え事を、してて。ごめんなさい」

 そうしたら、シリルがようやく握っていた手を離してくれた。そして、くるりと私の方を振り向いて、肩に手を置いて真剣な眼差しで言った。

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