冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~
 縛られたように動けずにいた私を……異常を察して部屋に入ってきた母親が助け起こそうとし、駆け付けた使用人たちが慌ただしく動きだすのを見て、私は首を振った。

(できない……)

 自分一人の苦しみから逃げ出すために今まで支えてくれた家族や使用人たちを裏切り、苦難を強いることなど……許されるはずがない。

 そうなれば、もう選択肢などあるはずはないのです。
 ここにいるのはエイダン家の嫡男たるキースで、私個人などもうどこにもいない……そう言い聞かせるしかありませんでした。与えられた役割をただ受け入れ、それを全うする。その日からそれだけが、私の生きる指針となったのです。

 そうしていると、どこかぼんやりと他人事のように時間は過ぎていった。
 騎士学校の生徒会室からは、王都にある時計塔がよく見えます。
 それが時を刻む様を見ながらいつも思っていました……私もあの部品の一部と同じなのだと。
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