□TRIFLE□編集者は恋をする□
「……うーん」
全然うまく撮れない。
どうして実際に目で見るのと、写真に写るのじゃこんなに違うんだろう。
構図を変えレンズを変え露出を変え、試行錯誤しながら何度もシャッターを切ったけれど、カメラにつないだパソコンで自分が撮った写真を確認して、ぐったりと項垂れた。
「実物はこんなに素敵なのに……」
馬具にも使われる丈夫で上質な革の素材と、シンプルで上品な金色の金具。
それなのに私が写した写真は、まるでメッキのプラスチックと安物の合皮のようなのっぺりとしたバッグに見える。
「こまったなぁ」
そう独り言をつぶやくと、がたりと音がして背後のドアが開いた。
「まだいたのか」
聞こえてきた低い声に、心臓がぎゅっと縮まる。
なんでここにいるんだろう。ホワイトボードには直帰って書いてあったのに。
「一人で残ってるのか。編集部の方はもう誰もいなかったぞ」
「片桐、直帰じゃなかったの?」
「ん?あぁ。忘れ物したから取りに来た。何、ブツ撮り?」
そう言いながら、片桐は身を屈めディスプレイに並んだ写真を見て左手で軽く顎に触れる。
微かに目を細めながら自分の唇に触れるのが、片桐の考えてる時の癖だ。
まっすぐに画面を見つめる横顔は、悔しいけどかっこいい。