□TRIFLE□編集者は恋をする□
編集部のホワイトボードの予定表に、『苫小牧でW本撮影』と書き込んでいると、三浦くんが近づいてきた。
「平井さん、今日は一日撮影なんですね」
「うん。東京からモデルさんが来てチャペルで撮影なの。雪景色を取りたかったからちょうどいい天気だし」
窓の外に視線を移す。
鉛色の空から、白い大きな雪のかけらがひらひらと絶え間なく降り続いていた。
「社用車で行くんですか?」
私の手の中にあるカローラの鍵を見て、三浦くんが首をかしげた。
「うん」
「平井さん車の運転大丈夫ですか?この雪で」
「うーん……」
確かに車の運転は慣れてないし苦手なんだけど、撮影は市街地から離れた場所にあるホテルだから車で行くしかない。
「なんとかなると思う」
そう私が言うと、三浦君が編集長を振り返った。
「編集長ー!俺も平井さんについて行っていいですか?撮影の現場勉強したいんで!」
「三浦。お前、手持ちの仕事は?」
「ないです。全部片づけてあります」
「ふーん。じゃあいいんじゃね?」
「やったー!」
三浦くんは鼻唄を歌いながら、ホワイトボードに『平井さんとデート』と書き込む。
「なにふざけてんの」
「俺が車の運転しますよ。平井さん運転苦手そうだから」
慌てて三浦くんの欄を書き直す私の手から、カローラの鍵を奪い取った。
「なんで私が運転苦手そうだと思うの?」
「不器用でいつも一直線に前しか見てないから。違います?」
悔しいけど当たってる。
車の運転はものすごく苦手だ。