□TRIFLE□編集者は恋をする□

彼の言葉に渋々うなずく。

「平井さん。なぐさめてもらいたくないんなら、男と二人っきりの時に泣かない方がいいですよ」

前を向いたまま言った三浦くんに、うまく乗せられたんだと気付いて、悔しくなった。
私を泣きやませるためにホテルに行こうなんて冗談を言ったんだ。
自分よりもずっと年下の大学生に気を使わせてしまうなんて、なんて情けないんだろう。

「ごめん。気を付ける」

「次泣いたら押し倒しますからね」

「大丈夫。意地でも泣かないから。少なくとも三浦くんの前では」

私が思いっきりイヤそうな顔をすると、三浦くんは面白がるようにクスクスと笑った。

その綺麗な横顔を眺めながら、
きっと、こんな男の子と付き合ったら、毎日楽しいんだろうな。なんて考えた。
無口で無愛想で偉そうで、何を考えてるんだか分からない男なんかよりも、おしゃべりで気が利いて優しい三浦くんみたいな男の事付き合った女の子は、きっと幸せなんだろうな。

だけど、実際は幸せになりたいから人を好きになるわけじゃなくて。
むしろ人を好きになったら苦しい思いをするばかりで。
恋心なんてただ複雑で厄介なだけだ。


□TRIFLE□08□END□

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