□TRIFLE□編集者は恋をする□
「匠……」
「美咲、こんなとこで何してるんだ?」
なぜ美咲さんが編集部にいるのか不思議だったんだろう。
驚いたようにこちらを見下ろす片桐に、化粧の崩れた寝不足の顔を見られるのが恥ずかしかったのか、美咲さんは慌てて顔をそらした。
「この仕事バカの女に、仕事の手伝いさせられてたの!」
ぽかんとする片桐の脇をすり抜けさっさとエレベーターに乗り込んだ美咲さんは、私を睨みながらそう怒鳴り、乱暴に操作盤のボタンを押す。
「あ、美咲さん!土曜日約束ですからね!」
エレベーターの中の美咲さんに向かって念を押すと、閉まる扉の隙間から美咲さんが私に向かってしかめっ面をしてみせた。
美咲さん、ちゃんと土曜日付き合ってくれるかな。
心配になりながら閉じたエレベーターの扉を見ている私に向かって片桐が不思議そうにたずねた。
「お前、昨日から徹夜で仕事してたのか。なにか急ぎのページあったっけ?」
「見開きで掲載する予定だったアートカフェイベントが中止になったから、埋め合わせの企画作らなきゃいけなくって」
片桐にフラれてからしっかりと顔を会すのはこれが初めてだけど、いつも通り仕事の話を出来る自分にちょっとホッとする。
片桐もいつもと変わらない様子で、寂しいような安心しつつ少しだけ複雑な気分になった。