□TRIFLE□編集者は恋をする□
「いただきまーす」
居酒屋のカウンターで、出て来た料理を前に割りばしを手に持ってそう言うと、となりで見ていた三浦くんが、ぷっと小さく笑った。
「何?」
「平井さんっていつもちゃんといただきますを言ってから食べますよね」
「え、変?」
「変じゃないですけど、仕事中に編集部でおにぎり食べる時もちゃんと言うよなぁって思って」
「どうせおばさんくさいとか言うんでしょ」
「いや、可愛いです」
三浦くんは顔をしかめた私に向かってにっこりと微笑んだ。
こわいこわい。
三浦くんはこの爽やかな笑顔で、きっと何人もの女の子を勘違いさせて泣かせてきたんだろう。
編集部のあるビルのすぐそばにある『吉乃』という小さな居酒屋は、元気のいい小柄なおばちゃんが一人で切り盛りする、優しい味付けの温かい料理を出してくれるアットホームな店だ。
編集長をはじめ、私も片桐もこの店の常連だった。
お酒を頼まずに食事だけしても嫌な顔ひとつしないし、『今日は朝まで帰れなさそう』なんて弱音を吐くと、『これ、朝ごはんにしなさい』とおにぎりをにぎって持たせてくれる。
吉乃のおばちゃんは、私たちにとって母親みたいな存在だ。