そして消えゆく君の声
 ぴりぴりした空気。

 全身から「早く帰れ」オーラが出ていて、この状況を嫌がっているのは明らかだったけど。


「私、今日は持ってきてるよ」


 私は気付かないフリをして、笑顔で空色に縁取られたビニール傘を差し出した。そっぽを向いた頬がわずかにこわばるのがわかる。 


「一緒に帰ろ」

「別にいい」

「でも、今日は夜まで雨って天気予報で言ってたよ」

「……いいって言ってんだろ」

「私が良くないよ。前、傘貸してもらったのに」


 有無を言わさず傘を開いて、吹き込む雨粒で湿った袖をつかむ。


「……っ」


 息をのんだ黒崎くん。布地ごしに伝わる震えに、もしかしてまた怪我をしたんじゃないかと心配になったけど、ただ驚いただけだったみたいで。


「…………」


 長く、細く。

 喉元でこらえていたものを吐き出すようなため息をつくと、何も言わずに雨の中へと歩き出した。

 承諾とも拒絶ともつかない反応。

 でも、雨の中帰らせちゃいかない。だって、征一さんに見つかったら。  


「待って待って、濡れちゃうから」


 傘を開きながら呼びかけて、私はあわてて足音を重ねた。
 
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