そして消えゆく君の声
 150センチちょっとの私と180センチ以上ある黒崎くんとじゃぜんぜん傘の位置が合わなくて、自然、グッと腕を伸ばすかたちになる。


 肘が痛くなりそう。

 心の中で呟きながら後を追うと、不意に右手が軽くなって。


「……あ」

「…………俺が持つ」


 歩きにくいと眉を寄せた黒崎くんの手には、丸みを帯びた傘の持ち手。

 空色のリボンと黒猫がプリントされた少女趣味な傘と大きな手はまるで合っていなくて、私は数秒目を丸くしてからつい口元を緩めてしまった。


 おかしいからじゃない。


 似合ってないのは私の傘だからだと思うと、なんだかくすぐったかったから。

 あんなに悩んでいたのにこんなことで嬉しくなるなんて、我ながら単純だと思うけど。



 ……でも、その浮かれた気持ちは長くは続かなかった。


 傘を持った黒崎くんは、まるで横に誰もいないみたいな態度で濡れたアスファルトを黙々と歩く。

 真っ黒な目は、曇ったガラス玉みたい。


(……気まずい)


 黒崎くんが喋らないのなんて今に始まったことじゃないのに、この居心地の悪さは何だろう。

 少し前までは砂のように流れる静かな時間が心地よかったのに、今はただ重たい沈黙がのしかかっている。


 普通にしなきゃ。


 普通。
 普通。


 ……でも、普通ってどんなのだっけ?
 
< 204 / 401 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop