私が本物の令嬢です!

「どうか、放っておいてください。私はもう、どうなってもよいのです」
「何を言っている?」
「だって、私はもう、愛する人に名乗ることができないのだから」
「何を言って……?」

 意味不明なことを言う女に、グレンは首を傾げる。
 グレンの手の力が弱まったのを悟ったのか、女はすぐさま振りほどいて、逃げるように走り去ってしまった。


 愛する人に名乗れない。
 得体の知れない術をかけられた女。
 ナスカ嬢と同じ金髪碧眼。
 伯爵夫人は後妻。


「いや、待てよ……おいおい、まさか」

 グレンの脳裏にひとつの疑惑が浮かんだ。
 昔、師匠から聞いた話にこういう事例がある。

 その貴族の家門を乗っ取るために、令嬢に似た者を送り込み、本物と入れ替えるということを。
 そして、本物は殺されるか。あるいは、口封じの術をかけられるか。

 その術は違法である。
 なぜならば、その術をかけられた者は身体が蝕まれ、体力が低下し、最終的には死に至るというのだから。


「くそっ、早くしないとあの女の命が……」

 グレンは拳を握りしめながら毒づいた。



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