エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける

「家具にしか興味のなかった社長が生身の人間に興味を持つようになってくださって、私も安心しました。最近は海外へ飛び回る癖も落ち着きましたし」
「すまない。きみには随分迷惑をかけた」

 真鍋を散々振り回してきた自覚はあるので、素直に詫びる。

「とんでもない。早く娘さんに直接会えるといいですね」

 皮肉を口にすることも少なくない真鍋だが、心からそう思っているのが伝わってくる、優しい言い方だった。

 真鍋は俺を変わったというが、俺から言わせてもらえば真鍋もだいぶ変わった。

 六本木のショールームで販売スタッフをしている女性社員と結婚した後くらいから、雰囲気や口調がなんとなくやわらかくなり、俺への小言も減った。

 おそらく真鍋の妻は、俺にとっての亜椰のような存在なのだろう。思い浮かべるだけで、ささくれ立った心が癒やされる、ふわふわした天使のような……。

「社長、今度は目元まで緩んでますよ」
「えっ? ……いちいち指摘しなくていい。運転に集中しろ」

 真鍋の冷やかしに咳ばらいをし、慌てて仏頂面を作る。

 しかし、脳内には天使の羽根をつけた亜椰の妄想が現れ、俺はさらに必死になって浮足立った心を鎮めなければいけなかった。

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