エリート御曹司はママになった初恋妻に最愛を注ぎ続ける

 乗り込んだ車内で、瑛貴さんがガチガチの私を見下ろして苦笑する。

「心の準備は、移動中にするしかないな」
「そんなに早く準備できる気は全くしませんが……」

 クスクス笑う瑛貴さんの横で、心臓が破裂しそうなほど大きな胸の高鳴りに耐える。

 覚悟を決めるまでに少しの猶予がほしくて渋滞に巻き込まれる期待をしたけれど、こんな時に限って道路は空いていて、十分弱でタクシーはホテルに到着した。

 瑛貴さんが泊まっているのは、私が滞在しているホテルとは格の違う高級ホテルだった。

 寝室以外に広いリビングやダイニングがまであって、家具や調度品はどれも上質なものばかり。

 緊張を紛らわせるようにキョロキョロしていたら、瑛貴さんがスーツのジャケットを脱いだので心の中で『きゃぁっ』と悲鳴を上げた。

 も、もう……?

 思わず心の中で問いかける。

 瑛貴さんはスラックスのポケットに入っていたスマホと手首から外した腕時計を飴色のライティングデスクの上に置くと、ネクタイに手をかけながら私の方を振り向いた。

「シャワーを浴びる?」
「あっ、いえっ。出かける前に済ませてきました」
「そう。俺はまだだから浴びてくる。ゆっくりしていて」

 軽い微笑みでそう言い残し、瑛貴さんがバスルームへ消えていく。

< 61 / 155 >

この作品をシェア

pagetop