敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
深く頷く男を強い視線で見つめ返した。
「そうすれば私の願いも聞いてくれるんですか?」
「恋人のふりをしてくれるなら、なんだって聞くよ」
七緒が了承しそうな雰囲気を感じたのか、彼の目が輝きを増していく。
彼に七緒の恋人のふりをしてもらえば、今回のお見合いを回避できるのではないか。陸地から離れた船の上でそれをできるのは今、彼が提示した方法以外にない。
失恋したばかりのうえ祖母とふたりで乗船したのに、いきなり恋人が現れるのは不自然な展開。向こう見ずだと頭ではわかっているが、窮地に立たされた七緒はその矛盾を無理やり弾き飛ばした。
「あなたも私の恋人のふりをしてくれますか?」
男性の瞳が揺らいだ。まさか同じ条件を提示されるとは想像もしなかったのだろう。
「俺も?」
「はい、この船に乗っている間だけでいいです」
同じく恋人を演じるだけでお互いに都合がいいとなれば、これ以上の打開策はない。