敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
そのうえフィットしたシャツから見るに、引き締まった体躯なのは歴然。容姿にとても恵まれた人だと改めて思う。
「とにかくこの船に乗っている間だけ結婚を約束した恋人になってくれればいいから」
「いきなり言われても困ります」
首を横に振って抵抗する。
チンプンカンプンな発言で目的がわからない。どうして七緒が彼の恋人のふりをしなくてはならないのか。
「キミの悪いようにはしない。すぐに済ませる。祖父に会って俺の恋人のふりをするだけだ」
「どうしてそんな真似を?」
「とにかく頼む」
七緒の質問に答えるでもなく、男が神頼み的に懇願する。
そんな彼に戸惑っていた七緒だが、ふと閃いた。
(船に乗っている間だけ彼の恋人になれば、私の要望も聞き入れてくれるって言ったよね……?)
彼が放った言葉を頭の中で反芻する。
「本当にそれだけなんですよね?」