敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
「お安い御用だ。よし、そうと決まれば行こう。すぐに済ませるから、まずは俺のほうに付き合ってもらいたい。じつはお見合いを企てられてね」
「えっ、お見合い?」
彼の隣を歩きながらデッキの階段を下りていく。
なんと七緒のように、意思とは関係なくお見合いをセッティングされたらしい。どうやって回避しようか土壇場で悩んでいたという。
今日は大安吉日で佳き日だと祖母が言っていたが、お見合いにぴったりなホテルや料亭ならいざ知らず、クルーズ船を会場にする人がほかにもいたのも驚きである。
(もしかしたら今時の流行なの?)
祖母は意外と流行りに敏感なのだろうか。
「いきなり恋人が現れるのは不可解だけど、なにも講じないよりはずっといい。結婚の意思がないと、相手への抑止力にもなるだろう」
「そう、ですよね」
かすかに感じていた不自然さを彼の言葉で完全に葬り去る。自信に溢れた態度に今はすがる以外にない。
「俺の名前は加賀谷聖、三十三歳。キミは?」
「私は久世七緒です。二十六歳です」