敏腕外科医はかりそめ婚約者をこの手で愛し娶る~お前は誰にも渡さない~
「私、これからネイルの予約を入れてるんだけど。……えー? そんなぁ。……わかりました。……はーい」
最後の〝はーい〟が嫌々なのは空返事からも明らか。どうやら予定を押し通せなかったようだ。
恵麻はため息をつき、ほとんど口をつけていないアイスティをそのままにして立ち上がる。
「七緒さん、私、お先に失礼しますね」
優雅な微笑みを残して店を出ていった。
恵麻を納得させることができず消化不良なのは否めないが、自分の気持ちをはっきり告げられたのは小さいながらも飛躍といっていいだろう。唯斗のときは、なにひとつ言い返せなかったから。
すっかり氷の溶けたジャスミンティーを飲み干して立ち上がる。バッグの中でスマートフォンがヴヴヴと振動を伝えたのは、七緒が店を出たときだった。聖からの電話だ。
歩道の端に寄って応答をタップして耳にあてる。
『七緒、俺』
「はい。どうしたんですか?」
時刻は午後二時を過ぎたばかり。勤務中に聖から連絡がくることはめったにない。