冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜
初めて見た。
メガネとスーツで包んでいた鉄壁な姿を脱ぎ捨て、男をむき出しにする。麻子の知らない九条がいた。直接見る九条の切れ長の目は、恐ろしいほどに美しい。
ドクドクと激しく胸が跳ね上がる。
見惚れたままでいる麻子に、九条の身体が下りて来て、それまでとは違う激しく貪るようなキスが降って来た。官能的で九条らしからぬ情熱的なキスに、もう他に考えられることなんてない。
「課長、好きです……すき」
この人が欲しい。ただそれだけ。
欲しくて欲しくてたまらない。
すべてを奪われるみたいなキスが繰り返され、必死にシーツを掴んでいた手を握り締められる。
初めて触れ合った九条の素肌に泣きたくなって、そのつるりとした背中にしがみついた。身体の中心に少しずつ確かめるみたいに長い指が入って行くたび声を上げる。
「大丈夫……か? 痛くない?」
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九条の甘く優しい声に、激しく頭を横に振る。気持ち良くてたまらない。触れたら分かるほどに感じていた。
「もう、お願いです……っ」
一つになる、その時。九条が一瞬、苦しそうに眉間に皺を寄せて目を閉じたのに気付く。
「――麻子」
でも、囁くように名前を呼んで、愛おしそうに手を握りしめながら入って来た。
「……あ、あぁっ」
「麻子、」
貫くように快感が身体を走る。
「もう、君が思い浮かべる男は私だけだ」
名前を呼ばれるたび身体が震えて。あまりの気持ち良さに、また九条の身体にしがみつく。
傷付いた過去を消し去るみたいに、ただただ、九条によって一方的に満たされた。