冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜
「3週間後、従姉妹を追い出せても、あのアパートに長く住み続けるのはやめた方がいいだろう。君の足を引っ張る者との関係は断ち切った方がいい」
確かに、ほとぼりがさめたら、また何かにつけて転がり込んで来るかもしれない。
「あの、課長……っ」
そう言って席を立とうとした九条を呼び止める。
「何から何まで本当にありがとうございます。改めて、これから3週間よろしくお願いします」
頭を下げた麻子に九条が言った。
「一緒に暮らすと言っても、私の世話は一切しなくていい。自分のことは自分でできる。何の気兼ねもいらない」
「はい」
こうして、九条との生活が始まった。
「――この部屋は君の私物を置くのに使ってくれていい。共用部分も、自分の家だと思って遠慮なく使って」
「ありがとうございます」
物置のようになっていた6畳ほどの個室を開けてくれた。そこは、ダンボールがいくつか積み重なっているだけの部屋で、がらんとしている。
「この部屋にベッドはないし、寝るのは私と同じベッドでいいな?」
「……はい」
言葉一つにいちいち反応してしまう自分もどうかと思う。
でも仕方ない。先ほどから、初めて見る私服姿のラフな九条に、ドキドキしっぱなしなのだ。
「ただでさえ仕事で疲れている麻子を、なるべく無理させないよう努力する」
なのに、そんなことを言って来たりする。心臓がいくつあっても足りない。