冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜
「――これ」
「なんですか?」
九条が四角い箱を差し出して来た。
「君へのプレゼント」
「え……、だって。この旅行でもう十分……」
「私も迷ったんだが、結局買ってしまっていた。気に入るかどうかわからないが受け取ってくれ」
どこか気まずそうな表情に、ここは遠慮してはいけない場面だともう一人の自分が忠告してくる。
「旅行もドレスも、たくさんもらったのに。でも、せっかく準備してくれたんですもんね。ありがたくいただきます。開けてもいいですか?」
「ああ……」
シルバーのリボンを解きブラックの包装紙を開くと、重厚な箱が現れた。その蓋を開けると、腕時計が現れた。
「……時計。すごく、かっこいいですね」
「どうだ? もっと、女性らしい方が良かったか?」
その言葉に頭を横に振る。
女性らしい華奢なデザインのものではなく、メタルバンドの大型のメンズライクな腕時計だった。小さな文字盤が中に二つ配置されていてビジネスでも重宝しそうだ。そんな実用性だけでなく、文字盤の周りをダイヤモンドの粒でぐるりと囲む女性らしい部分もある。かっこよさと女性らしさを兼ね備えた腕時計。一生物にできる本物の腕時計だ。
「こんなにいいもの、もらっていいんでしょうか……」
「君のイメージに合うと思ったんだ。“ハンサムな女性“そんな感じだろ?」
「ハンサムな女性……。私が?」
箱から腕時計を取り出し、手首にはめる。
「……やっぱり。想像通り、とても君に似合ってる。私にとって麻子はハンサムな女性だからな」
九条が嬉しそうに微笑むから、手首をくるんだ腕時計をまじまじと見つめた。
「意思が強くて努力家で。歯を食いしばって、一人ででも困難を乗り越えられる。それなのに、人には細やかに気を配る、そんな女性だ」
「褒め過ぎです」
まずい。泣きそうだ。
ネックレスでも指輪でもない大型の腕時計。それが、何より麻子自身を見て選んでくれたみたいで嬉しいのだ。
「一生大切にします。仕事で辛いことがあっても、この腕時計が毎日見守ってくれますね」
照明を受けてキラキラと光る腕時計に指で触れる。
「この時計に相応しい女性になれるように、頑張ります」
課長の隣にいても恥ずかしくない女になりたい。ずっと一緒にいたいと思ってもらえるように――。