冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜
0時を回る頃、自宅アパートに帰って来た。
かろうじて東京23区ではあるけれど、丸の内のオフィスからは距離がある。築30年の木造アパートの2階にある1DKの部屋。就職と同時に借りた部屋だった。
収入がいいこともあり、同僚たちは立地的にも条件的にもかなりいい部屋に住んでいる。その点麻子は、元々の貧乏性の性格もあるが、奨学金の返済、伯父への送金のためから贅沢はできなかった。
外廊下に面している麻子の部屋の窓から、明かりが漏れていない。結愛はもう寝ているのかもしれないと、そっと鍵を回した。
薄暗い狭い玄関で、古いシューズボックスに鍵を静かに置く。
パンプスを脱いで4畳の台所の小さな明かりだけを点けた。その照明だけで、家全体が見回せてしまう。6畳の和室に視線を向けると、ベッド脇にあるはずの布団はもぬけの殻だった。
寝てるんじゃなかったの――?
結愛がいないと分かって、和室の明かりをつけた。
ジャケットを脱いでハンガーに掛ける。ベッド、小さなデスク、書棚とローテーブル。それだけでこの部屋はもういっぱいだ。ここに二人で暮らすには無理がある。結愛が転がり込んで来てから2ヶ月、さすがにもう限界だった。
ローテーブルには、飲みかけのペットボトルと食べかけのカップ麺がそのまま置かれている。それを手に取り片付ける。
麻子の唯一の趣味で集めている観葉植物の上に、結愛が使ったであろうフェイスタオルが投げかけられていた。
それを拾い、浴室へと向かう。
服を脱ぎながら洗濯機にそのタオルも投げ入れる。結愛は自分の洗濯すらしない。
今日こそちゃんと話をしようと心に決めながらシャワーを浴びた。