冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜

episode08

“――私にとっては熱い思いなんてものより、収入の方が大事で“

新入社員のくせに、真顔でそんなことを言った。

『頼りになるのは現金だけ』そう言い切った彼女が、ずっと頭の中に残っていた。

それは、自分と似ていたから。
考え方も境遇も。

だから、彼女を育てたいと思った。
誰よりも金を稼げる人間に、女であろうと自分の力で生きていける自立した人間に。
足を引っ張る親族にも、ろくでもない男にも左右されない確固たる力を持たせたかった。

そう思っていたのに――。

彼女は俺とは全然違う人間だった。
俺のような醜く歪んだ人間ではなく、脆いのにどこまでも真っ直ぐな人。

羽ばたかせたいと思っていたのに。
どうしようもなく、
手放したくないと思ってしまった――。




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