冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜


「麻子、好きだ」

大きな手のひらで頬を挟まれる。これまでで一番甘い声が間近で囁かれた。

「この前からたくさん言ってもらってる。なんかくすぐったいです」
「年甲斐もなく言いたくてたまらないんだ」

両頬を覆っていた手のひらが麻子の腰を掴み、ひょいと抱き上げた。

「く、九条さん?」
「……今日は、めちゃくちゃに甘やかしたいんだが、いい?」
「この前も、甘やかされましたよ」

慌てて九条の首に腕を回すと、麻子を見つめる視線とぶつかる。

「この前? あれは俺の欲望が暴走しただけ。今日は、君のことだけを甘やかしたい」

その恐ろしいほどに甘く色気のある表情はなんだ。大人の男の甘い表情に、自分なんかが勝てるわけがない。

切れ長の眼差しが自分だけを見つめている。心臓の音が大きくなって九条に回した腕に力を込めた。

「君にも俺に溺れてもらいたいから」
「そ、そんなことばかり言って……っ、私はとっくに溺れてます!」

きっとこの顔は恥ずかしいくらいに赤くなっているだろう。甘い言葉と甘い眼差しの攻撃に、息も絶え絶えだ。

「そうか」

また、そんな優しい目――。

「ん……っ」

麻子を抱き抱えたまま唇を重ねる。
キスをされながら寝室のベッドへと運ばれて、ゆっくりと横たえられた。

「く、九条さん……っ」

覆い被さって間近にある顔を麻子から逸さずに、自分のネクタイを引き抜いていく。

「名前で呼んで。また、君に名前で呼ばれたいって、思ってた」

第一ボタン、第二ボタンと、長い指がシャツのボタンを開けていき、その胸板が顕になっていく。きっちりと整えられていた黒髪をかきあげ、前髪が一筋目にかかった。

それは、私だけが知っている私を抱く前の男の顔――。

「……拓也、さん」
「ん」

九条が慈しむように髪を撫でて、麻子の額に自分の額を重ねた。

「愛してる。この世で一番、君が大切だ。君以外に守りたいものはない。それだけは忘れないでくれ」
「……私も。拓也さんがいてくれたら、それでいい――」

先ほどより深いキスが降ってくる。

「何があっても、二人でいてください」

この先、また困難が襲いかかってきても、もう絶対に離れないで――。

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