冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜
それから数日後。オフィスから少し離れた店で、美琴と昼食を食べながら、祐介と別れたいきさつを話した。
「――はぁ? あいつ、何言っちゃってんの? 最低!」
「み、美琴、ちょっと、声落として」
「あ、ご、ごめん」
美琴がどこにいるかを忘れて大声を出すから、慌ててその口を止める。
「あまりにもひどくて、我慢ならなくなった。そんな男、別れて正解」
どう怒りを表していいかずっと分からなかった。だから、こうして第三者が怒ってくれると救われる。
「……ありがとう。でも、祐介の言葉を聞いて、私も知らず知らずのうちに苦しめてたんだって知ったよ」
華やかなだけの仕事じゃないと言って来たつもりだ。
けれど、自分にはそんなつもりはなくても、相手を不快にさせていたのだろう。
「まず。女を自分の自尊心を満たすための道具にするような奴の言い分は聞かなくてよろしい。よりにもよって身内に手を出すなんて、クズオブクズ」
バカ結愛とお似合いだわ――そう、美琴が吐き捨てた。
「あの女も、ろくなことしないだろうとは思ってたけど想像を超えて来たわ。もう、さっさと忘れな。麻子の本当の恋愛はまだ始まってなかったんだよ」
「……え?」
美琴が、ずん、と身を乗り出して来る。
「確かに、私から見てても、麻子はあの男と付き合ってる時いつもどこか冷静だった。恋ってもっと、コントロールできない感情にみっともなくなるものだと思うのね」
コントロールできない感情にみっともなくなるもの――。
「見てしまった汚いものは全部記憶から消して、次の恋を受け入れるの。麻子の運命の相手は他にいるってこと!」
美琴の目力に思わずのけぞる。
「でも、もう、男の人はいいかなって。やっぱり、私には恋愛なんてムリ――」
「何言ってんの!」
どん、と美琴がテーブルを叩いた。
「そんな最悪な経験ですべてを否定してほしくない」
美琴の言葉に曖昧に笑う。