冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜
「そんな可愛い声を出して、ダメじゃあないか」
「少し、お酒を勧め過ぎてしまいましたね。何かソフトドリンクでも頼みましょうか」
九条が言葉を挟む。
「何を言っているんだね。酒も楽しい時間もこれからだろう?」
久留米の行為はエスカレートしていく。
「脚も白くて綺麗だ」
坂田の指示で、この日のために履いてきたスカート。久留米の肉厚の手のひらで撫でられる。恐怖と恥ずかしさと嫌悪で全身に鳥肌が立つ。
「そ、そんな、とんでも、ございませ――」
「おやめください」
引き攣りそうな笑顔でやり過ごそうとした時、九条の鋭い声が飛んできた。
「何がだね?」
「私の部下は、そのようなことをされるためにここに来ているわけではありません」
九条の言葉に驚く。
「課長――」
この接待がどれだけ重要なものか。
九条の手腕で、もう決まったも同然でのとこらまで来ていた。せっかくの成功を壊すことはできない。咄嗟に九条を止めようと声を掛けたが、それさえも遮られた。
「私の部下に触れないでいただきたい」
「君も商社マンだ。この席がどういうものか分かっているはずだ。そちらだって、この席にその綺麗なお嬢さんを連れて来たのは意図があってのことだろう?」
さらに腰を撫で、脚に触れている手を押し付けてきた。
「いつの時代の話ですか? そのような前時代的な感覚でいらっしゃるのなら、ビジネスでも同様なのでしょう。であれば、我が社とは考え方が違うということになる」
「課長、待ってください――」
契約がなくなったら、この案件はどうなるのか。九条はどうなるのか――。
「彼女は嫌がっていないぞ? ほら」
あろうことか、久留米が麻子の腰をぐいと引き寄せた。
「触るなと言ったのが聞こえないのか!」
九条が久留米の手を振り払い、麻子を自分の背後へと隠した。
「御社とはいいパートナーになれると思った。私も、御社にはぜひ稼いでいただきたいと思ったのですが、今回はご縁がなかったと言うことで失礼いたします」
「おい、待ちなさい――」
「お見送り出来ず申し訳ございません。支払いはすべて済ませておきますので、どうぞそのままお帰りください」
「おい!」
久留米の叫び声に構わず、九条が麻子を個室から連れ出した。