冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜


 不意に目が覚めた。重い瞼を開けると、窓際の1人掛けソファに九条の姿があった。

 膝の上にはノートパソコン。そばに置かれたテーブルに、手元だけを照らすスタンドがあった。

 おそらく深夜。こんな時間まで仕事しているのだろうか。

仕事用のデスクはリビングにあった。なのに、ここで仕事をしているのは、私がいるから……?

なんて、あまりに自分に都合のいいことを考えそうなってすぐに打ち消す。

 視線だけで眺める。九条がキーボードを叩く手を止めて、頭を後ろへと逸らしていた。その喉仏から横顔の鼻へと続くラインに見惚れる。それに見入って、なんとなく声をかけられなかった。

 眠気には勝てなくて、九条の姿を見ているうちに結局眠りについてしまっていた。


――ん。

なんだろう。この、未だかつてない“寝た“という感じ。平日はもちろん週末も、麻子は基本的に早く起きる。それが学生時代からの習性になっていた。

一体、何時――?

まだ開き切らない瞼を手の甲で擦りながら、目覚まし時計を手に取ろうと、もう片方の手を彷徨わせる。なのに、いつもあるべき場所にない。

あ……っ!

ようやく完全に頭がはっきりとした。昨晩の出来事が一瞬にして蘇る。

 ハッとして上半身を起こした。でも、ベッドには自分しかいない。その事実で、やはり自分の身に起きたことは夢だったのだと思えるけれど、目に入る景色で夢ではなかったと知る。

確か、同じベッドで寝るって言っていたけど……。

全然気づかなかったし、既に九条の姿はない。あたふたとこの部屋の時計を探した。

「11時! 嘘でしょ?」

信じられない。図々しいにも程がある。課長にどう思われただろう――。

――コンコン。

一人絶望に陥っているとドアをノックする音がした。

「は、はい!」
「……入ってもいいか?」

ドアの向こうに、すぐに「大丈夫です」と答えた。慌てて髪を手で整える。

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