冷徹上司の氷の瞳が溶ける夜


「おはよう」
「こんな時間まで、のうのうと寝てしまって、本当に申し訳ございません……っ!」

九条の顔を見る勇気が出なくて、素早く正座をすると、額をマットレスに押し付けて謝罪する。

「ゆっくり寝られたみたいだな」
「ゆっくり寝すぎです。起こしてくだされば……」
「いや、あまりに無防備に熟睡してるから。起こす気になれなかった」

無防備に熟睡――自分がどんな顔をして寝ていたのか、怖いから深く追求するのはやめる。

「いいから、もう顔を上げろ」

頭に何かが触れる。ポンポンと優しく叩かれた。

「本当に、すみません」

恐る恐る顔を上げると、昨日とは違うシャツとネクタイ、ベスト姿の九条がいた。

「顔を洗って、着替えてくるといい。朝からその姿は目に毒だな」
「え……あっ! 見苦しいものをっ、す、す、すみませんっ!」

バスローブの前がはだけていた。慌てて胸元を隠す。

『目に毒だ』なんて言いながら、九条は余裕の笑みで。メガネ越しの眼差しときっちりと整えられた黒髪はいつもの鉄壁なもの。動揺し焦っているのは自分だけだ。

「乾燥機のものは一切触れていないから、自分で取り出して」
「は、はい」

逃げるように脱衣所に向かう。

 顔を洗い、着替えを済ませてバスルームから出ると、九条はジャケットを羽織っていた。

「……今日出勤されるんですか?」
「悪い。午後にタイとテレビ会議がある」
「そんなことを知らずに長居してしまって、すみませんでした!」

本当に、私は一体何をやっているのだ――!

「謝らなくていい。大丈夫だから君を寝かせていたんだ。昼飯を食べる時間くらいはあるから、一緒に食べよう」
「は、はい」

腕時計をしながら麻子にそう言った。
その立ち姿も、いちいち大人の男の色気が漏れ出て、それこそ目に毒だ。

「ゆっくりさせてやれなくて悪いな」
「とんでもないです」

同世代の男子とは全然違う。この人は、6歳年上の大人の男の人だ――。

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