恋ノ初風
「最近は自分で弁当作れるくらいには上達したぞ。心も美味しいって食べてたじゃないか」
 私が…食べた?………
「あー!あのお弁当!」
 ええ?!あんなに美味しいのを凛が作ったの?確かにあの時凛が自慢してたような。それなら凛が作ったのも納得できる。
「そうそう。母さんが料理好きだから、色々教えてもらってたんだ」
 冷蔵庫を開けたり、チルド室の野菜を漁ったりしている。
「じゃあ今度私にも教えて!」
「お?じゃあ今日一緒に作るか」
 凛が顔をこちらに向けて笑顔で言った。
「いいの?やったね」  
 なんだか、小・中学校の時の林間学校みたい。班でカレーを作ったりする、あれ。




「じゃあ玉ねぎまず切るぞ」
 私がパッと思いついて食べたかったからハンバーグと言ったら、凛が材料を買ってきてくれた。
「玉ねぎはこうやって、縦と横とから切り込みを入れて」
 私が包丁を持ってあたふたしていると「危ないから貸せ」と凛が私から包丁を取り上げた。
 そして凛が見せたのは良く上手い人がやっているあのみじん切り方法。名前は知らない。
「切ってみろ」
 包丁を受け取る。どう切ればいいかわからなかったから凛の方を見た。
「こう」
 包丁を表しているだろう右手は上下に動く。
 私は声には出さなかったけれど「あーはいはい」と口を動かしてジェスチャーのままに包丁を動かした。そしたらなんだかザクザクザクッ!っと切れる感触がした。
「おー!」
 私の感動を奪うように包丁を私の腕から取った。
「あーちょっと!せっかく良いところだったのに」
「こっからは、手慣れてからだな」
 と言い、包丁の先を左手で抑えて反対の手で包丁を上下に動かしてみじん切りをしていた。てこの原理を見ているようだった。
「じゃあこれ焼くぞ」
「は、はい!」
 焼く…。火傷しそうで怖い。
「意外と重いんだね」
「慣れたら軽くなる」
 なんだか凛の言うには慣れたら。が大事なんだろうなと思う。
「もっといてやるから、やるぞ」
 フライパンを持つ手の上からそっと凛の手が置かれる。その手は血管が浮いていて、ゴツゴツと骨が出ていて、なんだかその瞬間の私は、凛に対しては思ったことのない感情が浮かんできていた。奥底にあった何かが、浮力によって浮いてきた。
「熱いか?顔赤いぞ」
 そう、熱いから。この焼く作業で熱くなっているだけ。
 そうして生地を作り、凛が焼くのをそばで見ていた。
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