Melts in your mouth
山田の出現に合わせたかの様に、窓の外に広がっていたどんよりとした雲間から太陽の光がお目見えして二切れのザッハトルテの影が伸びる。
有り余るまでに長い脚を組んで、ネクタイと社員証を胸ポケットへ無造作にインしている相手が、頬杖を突いて首を僅かに傾けた。
「聞いてんの?」
「え?」
「この頃菅田を補給できなくて俺、心死んでたんですけど?」
「ダウト。」
「フハッ、即答すんな。」
クシャリと優しく表情を崩してクスクスと声を漏らす相手に後光が射していて眩い。人が良すぎていよいよ観音様にでもなったんか?
…山田なら十分に有り得る話だから怖いな。
「私なんかを補給したら吐血して死ぬからやめといた方が良いよ。」
「猛毒じゃん。」
「知らなかったの?」
「あー、確かに言われてみたら菅田は猛毒かもな。」
「……。」
「だってほら、こうやって他の男《ヤツ》も虜にしてるから。だから、ある意味猛毒だよ菅田は。」
この時、山田が浮かべた表情を形容する言葉がまるで見つからなかった。
冗談っぽく微笑んでるのに何処か苦しそうな相手が指差した先にあったのは、平野の作ってくれた弁当と、平野から貰ったケーキ。
「菅田に弁当を作ってあげる権利だけは、俺一人のモンだと思ってた。てか、菅田には俺の作った弁当だけを食べて欲しかった。」
自嘲的な笑みを薄っすらと湛えている山田が、何だか今にも泣き出してしまいそうだからなのか、胸の奥が痛い。
「なーんてな。やっぱ平野が絡むと余裕なくなって駄目だわ俺。」
変に重くなったその場の空気を振り払うかの様に、無理に明るい声を放った山田がクシャクシャと自らの髪を掻き乱して、そのまま端正な顔の半分を手で覆い隠した。
それから山田の口から出た深い溜め息が、誰もいない空間に溶けた。