Melts in your mouth
私なんかに弁当を作ってくれる人間が二人も存在するというのは、奇跡である。自分で言うのも何だが、私はちゃんと己の身の丈って奴を理解しているつもりだし、自分に然程魅力がないという自覚もある。
だからこそこんな奇跡に恵まれたからには、もうこの先一生宝くじに当選する事はないだろう。断言できる。だってありったけのくじ運ここに使ってんだもん。
「山田の料理は優しいよね。」
「急に何だよ。」
「平野の料理はナルシスト。」
「フハッ、例えの癖強いな。」
「だって、山田のお弁当は兎に角温かみがあるけど、平野のお弁当はひたすら俺の作った!お洒落な弁当!見て!感がもう溢れんばかりに出てる。」
「冷静な顔で何言ってんだよ。確かに平野の弁当はどっかのカフェをテイクアウトしたみてぇにお洒落だけど。」
「でも、どっちも美味しい。」
「……。」
「すっごく、美味しい。私如き捻くれた腐れ女が口にするのも畏れ多いくらいに美味しい。」
ごめんな山田。こんなの言い訳でしかないけれど、私は産道を通った時に「気遣い」とやらを子宮に忘れてしまったらしいから、こうして複雑そうに表情を崩す山田に対して気の利いた言葉が一つも出てこない。
ザッハトルテを一瞥すれば、滑らかな表面に汗をかいていた。このままだと溶けるのも時間の問題かもしれない。
そんな懸念がふと頭を過ぎったが、山田と再び視線が絡んだ途端に直ぐ様世界一ショボ臭い懸念が消滅する。
「だから、山田さえ良ければ作って下さい。」
「…え。」
「私は普通に山田の味に飢えてっから。だから頼む、私のお弁当係を辞めないでくれ。じゃないと栄養失調で死ぬ。」
「菅田なら有り得そうだわ。」
「でしょ。」
「何、それって、これからも俺が作った弁当食べてくれるってこと?」
「勿論。喜んで。」
「……。」
「ねぇ、山田。」
「ん?」
「平野が絡むと冷静でいれなくなっても良いじゃん。寧ろ山田も人間なんだなって安心できる。だから自分で自分のことをダメだななんて言うな。それだけは、絶対に言わないで。」